エルメス財団は、ブリュッセルと東京にある二つのエルメス・ギャラリーの協働によるグループ展「スペクトラムスペクトラム(Spektrum Spektrum)」を開催いたします。
本展は、ブリュッセルにあるラ・ヴェリエール(La Verrière)にて開催された「Spektrum」(2024年5月16日~7月27日)を鏡のように映し出しながら、東京の銀座メゾンエルメスフォーラムで、新たなナラティブの構造を重ね合わせてゆく対話の中で生まれました。
タイトルである《スペクトラム》とは、ドイツ語表記によるスペクトル(Spectrum)で、物理的な現象の分布や範囲(光学や音響に用いられるスペクトルなど)を表すと同時に、亡霊や幻視といった超自然的な存在や、また比喩的に扇子を意味するなど、広い射程とグラデーションを持つ言葉です。
ベルリンを拠点とするエマニュエル・カステランの拡張的個展として展開したブリュッセルから、本展「スペクトラムスペクトラム」では、《スペクトラム》という言葉に含有される振れ幅や共鳴を鏡のような道具として用いながら、展覧会を一つの小説のように捉え、真実と虚の〈あいだ〉 にとどまることのできる居場所として、密やかな室内のナラティブを生み出そうとするものです。
モンタージュを思わせる切り込みのあるキャンバスに人物像を描くエマニュエル・カステランは、マルグリット・デュラスなどのヌーヴォー・ロマンに影響を受け、舞台や映画のセットのような空間を立ち上げます。セラミックを用いるヨハネス・ナ―ゲルは、鮮明な発色や、非対称、不調和、表面の粗さや滑らかさを放つ壺(器)で、異なる次元を掘り出し、ヴァルター・スウェネンの絵画は、謎めいた暗号を投げかけます。映像原理を用いて、時空の振れ幅を可視化させる津田道子、器やスプーンなどのオブジェの凹面に、エロテックな幻想を宿しつつ結界をももたらす川端健太郎のオブジェ、ユーモアに満ちた水の亡霊を路上にしかける題府基之の写真、そして輝くようなパステルの色彩を用い、現実を装飾へと昇華させるマリー・ローランサン。それぞれの作品が不可避に関わり合い、映し合うなかで、スペクトラムは反復し、その姿や幻影を現わしてゆくでしょう。
ラ・ヴェリエールのあるブリュッセルを拠点に活動したマルセル・ブロータース(1924-1976)は、独⾃のアイロニーと詩を通じて、制度やアートの虚構化を試み、現代のアーティストにもインスピレーションを与え続けています。彼にとって、展覧会という形式は常に批判の道具であり、同時に、場を虚構化し、真実と虚の〈あいだ〉 にある場所に留まる実践でもありました。
加速する情報社会のコミュニケーションにおいては、真実や事実という言葉を使うことは、ますます難しくなっています。だからこそ、本展では、ブロータースの越境的な大胆さやユーモアに倣い、7名のアーティストの真実と反射、逆転、持続、幻想、心霊現象などの〈あいだ〉にある場所を意図的に登場させ、鑑賞者の身体を通じた作品とのナラティブの形成を、信頼の可能性のひとつと考えるのです。
アーティストプロフィール
Artists Profile
エマニュエル・カステラン Emmanuelle Castellan
1976年、オ―リヤック(フランス)生まれ。2011年よりベルリンを拠点に活動。カステランは、眼差しの葛藤を描き出そうとする。それは、今この瞬間を捉えたいという欲望、女性として生きる現実、そして記号のもつ恣意性の間で揺れ動く眼差しの軌跡である。筆致や切りこみが何層にも重ねられた絵画は、消え入りそうな儚さと同時に確かな存在感を放つ。額縁にとらわれず、カンヴァスや壁に直接描かれる作品は、幽玄で有機的に空間と溶け合いながら、より開かれた展示空間を創り出す。カステランの作品はフランス・ドイツ・英国の文化機関に収蔵されている。また、現在はストラスブールにあるライン芸術大学で教鞭をとるなど、次世代の画家の育成にも10年以上携わる。
題府基之 Motoyuki Daifu
1985年、東京都生まれ。現在は東京を拠点に活動。自身の実家や路上など、身の回りの瞬間を捉えた題府の写真は、普遍的な日常や風景がはらむ非日常性を露わにし、超日常へと転換させていく。2007年にひとつぼ展(現 1_wall)に入選。2013年に国際写真賞「Prix Pictet」にファイナリストに選出。2017年には日産アートアワードにノミネート。2012年に初の写真集『Lovesody』を出版。続く2013年に『Project family』が出版された。2018 年にはフランスの小説家ミシェル・ウェルベックとコラボレーションした書籍『大型スーパー 11月』を刊行。2022年にはヨーロッパ写真美術館で個展を開催。国内外で数々の個展・グループ展に参加。
川端健太郎 Kentaro Kawabata
1976年、埼玉県生まれ。現在は岐阜県を拠点に活動。自然の自己生成と再生に着想を得て生み出される川端の磁器のフォルムには、有機的な生命力が漲る。錬金術的に素材を組み合わせる実験的な手つき、制作過程で発生した残滓を新たな作品へと昇華させるなど、プロセスの集積として、生物形態学的な様相を呈する川端の作品は、自然の果てしなさ、絶え間ない再生のサイクルを暗示させる。2000年に多治見市陶磁器意匠研究所を卒業。2004年に益子陶芸展・加守田章二賞、2007年にパラミタ陶芸展大賞など、受賞歴多数。
マリー・ローランサン Marie Laurencin
1883年、パリ生まれ。アカデミー・アンベールに学び、そこで知り合ったブラックを介してエコール・ド・パリの作家との交流を深め、特にキュビズムやアンリ・ルソーの影響を受ける。1914年よりスペインへ居を移す。1921年にパリに戻る頃には真珠のように輝く白とパステルカラーで描く詩情豊かな独自のスタイルを確立。ローゼンバーグ画廊で開かれた個展で成功をおさめる。肖像画や舞台衣装の分野でも活躍した。1956年没。
ヨハネス・ナ―ゲル Johannes Nagel
1979年、イェーナ(ドイツ)生まれ。現在ハレ(ドイツ)を拠点に活動。カナダでイシカワ・キンヤに弟子入りした後、ハレ・ブルグ・ギービヒェンシュタイン美術学校(ドイツ)在学中に、信楽(日本)やオハイオ大学(米国)などの陶芸センターで滞在制作を行う。ナ―ゲルは粘土そのものの物質性を追求しながら、陶芸を「機能的、家庭的、装飾的な工芸」とする従来の枠組みを、フォルムとコンセプトの両面から揺るがす。特に「器」の形式をとりあげ、その彫刻的な可能性を起点に、歴史的・伝統的・古典的・現代的な器のあり方を絶えず解体し続けている。ナ―ゲルの作品はヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)など国際的な機関に収蔵されるなど、工芸の枠を超え、現代美術やデザインの分野でも注目を集めている。
ヴァルター・スウェネン Walter Swennen
1946年、ブリュッセル(ベルギー)生まれ。現在も同地で活動。哲学、心理学を学んだ後、詩人、そして画家としての活動を始めたスウェネンの絵画は、作品の完全なる自律性への信念に要約することができる。意味やシンボルから自由に連想し、何よりもユーモラスなスウェネンの作品は一種の視覚的な詩ともいえよう。ベルギー美術史における真の参照点と称され、2021年にボン美術館(ドイツ)で始まった大規模な回顧展は、デン・ハーグ美術館(オランダ、2021年)、ヴィンタートゥール美術館(スイス、2022年)を巡回した。
津田道子 Michiko Tsuda
1980年、神奈川生まれ。インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多様な形態で、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作する津田の独特のスタイルの作品群は、不思議な空間的広がりと詩的な豊かさを備えている。2016年より神村恵とのユニット「乳歯」としてパフォーマンスを行う。2013年東京芸術大学大学院映像研究科で博士号を取得。2019年にACCのグランティとしてニューヨークに滞在。Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024受賞。
本展は、ブリュッセルにあるラ・ヴェリエール(La Verrière)にて開催された「Spektrum」(2024年5月16日~7月27日)を鏡のように映し出しながら、東京の銀座メゾンエルメスフォーラムで、新たなナラティブの構造を重ね合わせてゆく対話の中で生まれました。
タイトルである《スペクトラム》とは、ドイツ語表記によるスペクトル(Spectrum)で、物理的な現象の分布や範囲(光学や音響に用いられるスペクトルなど)を表すと同時に、亡霊や幻視といった超自然的な存在や、また比喩的に扇子を意味するなど、広い射程とグラデーションを持つ言葉です。
ベルリンを拠点とするエマニュエル・カステランの拡張的個展として展開したブリュッセルから、本展「スペクトラムスペクトラム」では、《スペクトラム》という言葉に含有される振れ幅や共鳴を鏡のような道具として用いながら、展覧会を一つの小説のように捉え、真実と虚の〈あいだ〉 にとどまることのできる居場所として、密やかな室内のナラティブを生み出そうとするものです。
モンタージュを思わせる切り込みのあるキャンバスに人物像を描くエマニュエル・カステランは、マルグリット・デュラスなどのヌーヴォー・ロマンに影響を受け、舞台や映画のセットのような空間を立ち上げます。セラミックを用いるヨハネス・ナ―ゲルは、鮮明な発色や、非対称、不調和、表面の粗さや滑らかさを放つ壺(器)で、異なる次元を掘り出し、ヴァルター・スウェネンの絵画は、謎めいた暗号を投げかけます。映像原理を用いて、時空の振れ幅を可視化させる津田道子、器やスプーンなどのオブジェの凹面に、エロテックな幻想を宿しつつ結界をももたらす川端健太郎のオブジェ、ユーモアに満ちた水の亡霊を路上にしかける題府基之の写真、そして輝くようなパステルの色彩を用い、現実を装飾へと昇華させるマリー・ローランサン。それぞれの作品が不可避に関わり合い、映し合うなかで、スペクトラムは反復し、その姿や幻影を現わしてゆくでしょう。
ラ・ヴェリエールのあるブリュッセルを拠点に活動したマルセル・ブロータース(1924-1976)は、独⾃のアイロニーと詩を通じて、制度やアートの虚構化を試み、現代のアーティストにもインスピレーションを与え続けています。彼にとって、展覧会という形式は常に批判の道具であり、同時に、場を虚構化し、真実と虚の〈あいだ〉 にある場所に留まる実践でもありました。
加速する情報社会のコミュニケーションにおいては、真実や事実という言葉を使うことは、ますます難しくなっています。だからこそ、本展では、ブロータースの越境的な大胆さやユーモアに倣い、7名のアーティストの真実と反射、逆転、持続、幻想、心霊現象などの〈あいだ〉にある場所を意図的に登場させ、鑑賞者の身体を通じた作品とのナラティブの形成を、信頼の可能性のひとつと考えるのです。
アーティストプロフィール
Artists Profile
エマニュエル・カステラン Emmanuelle Castellan
1976年、オ―リヤック(フランス)生まれ。2011年よりベルリンを拠点に活動。カステランは、眼差しの葛藤を描き出そうとする。それは、今この瞬間を捉えたいという欲望、女性として生きる現実、そして記号のもつ恣意性の間で揺れ動く眼差しの軌跡である。筆致や切りこみが何層にも重ねられた絵画は、消え入りそうな儚さと同時に確かな存在感を放つ。額縁にとらわれず、カンヴァスや壁に直接描かれる作品は、幽玄で有機的に空間と溶け合いながら、より開かれた展示空間を創り出す。カステランの作品はフランス・ドイツ・英国の文化機関に収蔵されている。また、現在はストラスブールにあるライン芸術大学で教鞭をとるなど、次世代の画家の育成にも10年以上携わる。
題府基之 Motoyuki Daifu
1985年、東京都生まれ。現在は東京を拠点に活動。自身の実家や路上など、身の回りの瞬間を捉えた題府の写真は、普遍的な日常や風景がはらむ非日常性を露わにし、超日常へと転換させていく。2007年にひとつぼ展(現 1_wall)に入選。2013年に国際写真賞「Prix Pictet」にファイナリストに選出。2017年には日産アートアワードにノミネート。2012年に初の写真集『Lovesody』を出版。続く2013年に『Project family』が出版された。2018 年にはフランスの小説家ミシェル・ウェルベックとコラボレーションした書籍『大型スーパー 11月』を刊行。2022年にはヨーロッパ写真美術館で個展を開催。国内外で数々の個展・グループ展に参加。
川端健太郎 Kentaro Kawabata
1976年、埼玉県生まれ。現在は岐阜県を拠点に活動。自然の自己生成と再生に着想を得て生み出される川端の磁器のフォルムには、有機的な生命力が漲る。錬金術的に素材を組み合わせる実験的な手つき、制作過程で発生した残滓を新たな作品へと昇華させるなど、プロセスの集積として、生物形態学的な様相を呈する川端の作品は、自然の果てしなさ、絶え間ない再生のサイクルを暗示させる。2000年に多治見市陶磁器意匠研究所を卒業。2004年に益子陶芸展・加守田章二賞、2007年にパラミタ陶芸展大賞など、受賞歴多数。
マリー・ローランサン Marie Laurencin
1883年、パリ生まれ。アカデミー・アンベールに学び、そこで知り合ったブラックを介してエコール・ド・パリの作家との交流を深め、特にキュビズムやアンリ・ルソーの影響を受ける。1914年よりスペインへ居を移す。1921年にパリに戻る頃には真珠のように輝く白とパステルカラーで描く詩情豊かな独自のスタイルを確立。ローゼンバーグ画廊で開かれた個展で成功をおさめる。肖像画や舞台衣装の分野でも活躍した。1956年没。
ヨハネス・ナ―ゲル Johannes Nagel
1979年、イェーナ(ドイツ)生まれ。現在ハレ(ドイツ)を拠点に活動。カナダでイシカワ・キンヤに弟子入りした後、ハレ・ブルグ・ギービヒェンシュタイン美術学校(ドイツ)在学中に、信楽(日本)やオハイオ大学(米国)などの陶芸センターで滞在制作を行う。ナ―ゲルは粘土そのものの物質性を追求しながら、陶芸を「機能的、家庭的、装飾的な工芸」とする従来の枠組みを、フォルムとコンセプトの両面から揺るがす。特に「器」の形式をとりあげ、その彫刻的な可能性を起点に、歴史的・伝統的・古典的・現代的な器のあり方を絶えず解体し続けている。ナ―ゲルの作品はヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)など国際的な機関に収蔵されるなど、工芸の枠を超え、現代美術やデザインの分野でも注目を集めている。
ヴァルター・スウェネン Walter Swennen
1946年、ブリュッセル(ベルギー)生まれ。現在も同地で活動。哲学、心理学を学んだ後、詩人、そして画家としての活動を始めたスウェネンの絵画は、作品の完全なる自律性への信念に要約することができる。意味やシンボルから自由に連想し、何よりもユーモラスなスウェネンの作品は一種の視覚的な詩ともいえよう。ベルギー美術史における真の参照点と称され、2021年にボン美術館(ドイツ)で始まった大規模な回顧展は、デン・ハーグ美術館(オランダ、2021年)、ヴィンタートゥール美術館(スイス、2022年)を巡回した。
津田道子 Michiko Tsuda
1980年、神奈川生まれ。インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多様な形態で、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作する津田の独特のスタイルの作品群は、不思議な空間的広がりと詩的な豊かさを備えている。2016年より神村恵とのユニット「乳歯」としてパフォーマンスを行う。2013年東京芸術大学大学院映像研究科で博士号を取得。2019年にACCのグランティとしてニューヨークに滞在。Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024受賞。
作家・出演者 | エマニュエル・カステラン, 題府基之, 川端健太郎, マリー・ローランサン, ヨハネス・ナ―ゲル, ヴァルター・スウェネン, 津田道子 |
会場 | 銀座メゾンエルメス フォーラム (Ginza Maison Hermès Le Forum) |
住所 | 104-0061 東京都中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス 8・9F |
アクセス | ※銀座店内混雑緩和のため、ソニー通り側のエレベーターからご案内いたします。フォーラムへの入退場に店舗内のエレベーターをご使用頂くことができませんのでご注意ください。 銀座駅(東京メトロ丸ノ内線, 日比谷線, 銀座線)C4口 徒歩3分 有楽町駅(JR山手線, 京浜東北線)銀座口 徒歩6分 日比谷駅(東京メトロ千代田線, 小田急小田原線)A1口 徒歩7分 東銀座駅(都営浅草線)A1口 徒歩9分 |
会期 | 2025/03/20(木) - 06/29(日) |
時間 | 11:00-19:00 ※入場は18:30まで |
休み | 水曜日 ※開館日時は予告なしに変更の可能性がございます。随時こちら https://www.hermes.com/jp/ja/story/252026-mgstoreopeningtimechange/ でお知らせ致します。 |
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