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フェミニズムと映像表現(2025.2.11–6.15)

東京国立近代美術館

2025/02/11(火) - 06/15(日)

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マーサ・ロスラー《キッチンの記号論》1975年 Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York
マーサ・ロスラー《キッチンの記号論》1975年 Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York
1960年代から70年代にかけて、テレビの普及やヴィデオ・カメラの登場によってメディア環境が急速に変化すると、作家たちは新しいテクノロジーを自らの表現に取り入れはじめました。同じ頃、世界各地に社会運動が広がり、アメリカでは公民権運動、ベトナム反戦運動などの抗議活動が展開されます。そのなかでフェミニズムも大衆的な運動となり、男性優位の社会構造に疑問を投げかけ、職場や家庭での平等を求める女性が増えました。この状況は、女性アーティストたちが抱いていた問題意識を社会に発信することを促しました。主題や形式の決まっている絵画などに比べると、ヴィデオは比較的自由で未開拓な分野だったため、社会的慣習やマスメディアの一方的な表象に対する抵抗を示すことにも有効でした。前会期から続くこの小企画では、作品の一部を入れ替えて、上記の時代背景を起点とする1970年代から現代までの映像表現を紹介します。鑑賞の手がかりとなるいくつかのキーワードにもご注目ください。


キーワード1:個人的なこと
ヴィデオ普及以前の主要な映像記録媒体であった8ミリや16ミリのフィルムは、撮影後に現像とプリントが必要なため上映までに時間を要しました。1960年代にヴィデオ・カメラが登場すると、撮影後すぐに上映可能な即時性が注目され、撮った映像をその場で見せるライブ・パフォーマンスや即興的な撮影がさかんに試みられます。生成と完成のタイムラグが極めて少ないヴィデオは、撮りながら考える、あるいは撮ってから考えることを可能にし、身の回りの題材や個人的要素を反映した作品も制作されました。
マーサ・ロスラーが《キッチンの記号論》を発表した当時、アメリカでは女性の料理研究家のテレビ番組が国民的人気を博しており、ロスラーの意見(料理を女性の役割とみなすことへの違和感)は少数派だったかもしれません。しかし本作品は国や時代を超え、現在も共感を集めています。1970年代初頭のアメリカで、「個人的なことは政治的なこと」というスローガンを掲げたフェミニズム運動のもと映像制作を始めた出光真子は、女性たちの置かれた日常から出発した作品を制作しました。個人の声をダイレクトに伝えるヴィデオは社会に問いを投げかけるメディアでもあるのです。

キーワード2:対話
ヴィデオというメディアは、絵画や彫刻、写真にはない、発話という新しい要素を芸術表現にもたらしました。出光真子の作品では、両親から発せられる一方的な言葉は、娘を抑圧したり、追い詰めたりするばかりで、互いの立場や意見の違いを尊重する「対話」とはほど遠い言葉の応酬が描かれます。遠藤麻衣×百瀬文の《Love Condition》では、2人の作家が粘土をこねながら、「理想の性器」についての対話を繰り広げます。両者のアイデアの差異や一致が、次々と新たな展開を生んでいきます。この作品では、対話はあらかじめシナリオが決められているわけではない、脱線や混線、笑いの伴う即興的な「おしゃべり」として展開することが特徴です。他方、キムスージャの《針の女》では声を伴う会話はありませんが、都市の雑踏の中、針のように直立不動で立つ女性と、彼女に気づき眼差しを向ける人々の間には、異質な存在どうしの無言の対話が生まれているのではないでしょうか。

キーワード3:「私」の分裂
出光真子は、1970年代前半に男女同権を求めて女性たちが立ち上がったウーマン・リブの時代に、映像という手段で自己の表現をスタートました。それから30年あまりの年月で40本近い作品を発表してきました。出光の作品では、家庭や社会でさまざまな状況に置かれた女性たちが直面する制約や葛藤、反発が描かれます。また、作品の中に入れ子状にもう一つの画面を登場させることで、現実世界と精神的な内面世界との分裂を浮き彫りにします。 さまざまな職業の女性たちと、彼女たちの影(負の部分)がモニターに映し出された《シャドウ パート1》、母親とその分身としての娘の複雑な関係に焦点をあてた《グレート・マザー 晴美》、そして、画家である女性が、肉親や友人からの抑圧的な言動によって追い詰められていく様子を描いた《清子の場合》は、家父長制が根強い家に生まれ、娘、妻、主婦、母としての毎日を送っていた出光自身の日常に根ざした作品です。出光が描き出す、社会や家族の中で埋没していく「私」の抱く閉塞感や息苦しさは、2020年代を生きる私たちにもなおリアリティをもって迫ってくるのではないでしょうか。

出典

作家・出演者マーサ・ロスラー, ナンシー・ホルトとロバート・スミッソン, 出光真子, 遠藤麻衣×百瀬文, キムスージャ
会場東京国立近代美術館とうきょう こくりつ きんだい びじゅつかん (The National Museum of Modern Art, Tokyo, 도쿄국립근대미술관, 东京国立近代美术馆)
住所
102-8322
東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス
竹橋駅(東京メトロ東西線)1b出口 徒歩3分
九段下駅(東京メトロ東西線, 半蔵門線, 都営新宿線)4番出口 徒歩15分
神保町駅(東京メトロ半蔵門線, 都営新宿線, 三田線)A1出口 徒歩15分
会期2025/02/11(火) - 06/15(日)
時間10:00-17:00
※金曜日、土曜日は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
※企画展は、展覧会により開館時間が異なる場合があります
休み月曜日、2月25日、5月7日
※ただし、2月24日(月)、3月31日(月)、5月5日(月)は開館
観覧料一般 500円
大学生 250円
高校生以下および18歳未満 無料
65歳以上 無料
「MOMATパスポート」をお持ちの方 無料
障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名) 無料
※割引対象者の方は、入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。

5時から割引(金・土曜)
一般 300円
大学生 150円

※本展の観覧料で入館当日に限り、フェミニズムと映像表現(ギャラリー4)もご覧いただけます。
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