光と音をつなぐハルーン・ミルザの彫刻は、ベースアンプやソーラーパネルなど既製品を寄せ集めた不安定なアッサンブラージュとして構成されています。光と音を彫刻の素材として扱う彼は、周波数や波長を操作する電流こそが自身の表現メディアであると語ります。端正なライン、幾何学的なフォルム、抑制された色使いといったミニマルな美しさとは対照的に浮かび上がるのは、視聴覚を刺激する複雑なコンポジションであり、それを生み出すパターン生成のメカニズムです。
「Ceremonies and Rituals (祭典と儀式)」と題した本展では、ミルザを魅了する電流の効果をさらに掘り下げ、神秘的な体験と科学的な分析が交差する未知の領域に踏み入ります。神聖な幾何学や儀式の要素を取り入れ、宗教的セレモニーに用いられる音や、サイケデリック研究において神秘的な体験が神経学的プロセスとしてどのように解明されるのかという作家の関心を反映しています。
本展の中心となるのは、初公開となる2チャンネル映像のインスタレーション《Cymatic Ceremony》(2024年)です。映像がドラムセットのライブ演奏とシンクロするこの作品は、振動現象を研究する一分野であるサイマティクス*1に言及しています。映し出されるのは、森の中にいるアーティスト へルガ・ドロテア・ファノンであり、クラドニプレート*2の上に種を撒き、儀式めいた行為を続けています。111Hzを含む様々な周波数で共鳴する金属プレートは、歌い手(ジュリエット・フレイザー)の声に反応して複雑なパターンを見せます。固有の振動数と共鳴することで現れるこれらの模様は、サイマティックパターンと呼ばれ、雪の結晶や貝殻のような多くの自然形態に見出すことができます。本作では、スイスの医師であり人智学の提唱者でもあったハンス・ジェニーが研究したこれらの形態を参照しつつ、神秘的な「Om(オーム)」の周波数を111Hzと仮定しています。
展覧会では、ミルザの近作シリーズ 《Ogdoad Interstellar Magnet (Solar Cell Circuit Compositions)》もあわせて展示されます。8つ光線を放つ太陽に着想を得ており、タルテシア文明に起源をもつこのシンボルは、今日、アラブ世界で「ルブ・アル・ヒズブ」として知られています。八芒星の中心には、銅のコイルに包まれた隕石が置かれ磁場を形成しています。
本シリーズにおいてミルザは、パキスタン出身の画家ブリシュナ・アミン・カーンの細密画を縁取るように、複雑な回路を配してソーラー電池を並べ、LEDライトを発光させています。西洋の古典絵画やカトリックの図像では、後光や烽火のように光り輝くオーラは、崇高さや神性を象徴するものとされています。「一方、このシリーズに登場する人物は、異教の信徒であったり、土着のヒーラー、オリビア・アレヴァロ*3のようなサイケデリアの象徴です。「三点の作品はそれぞれ、《Cymatic Ceremony》の映像に直接関連するシーンを描いており、ギャラリースペースに注ぎ込む陽光と相互作用しながら、発光するソーラー電池の回路が、シャーマニズム儀式における自然と意識の変容段階を探求しています。」 (作家談)
「Ceremonies and Rituals」は、本ギャラリーでの10年ぶり2度目の個展であり、ミルザの最新作を公開する貴重な機会となります。社会政治的な背景に言及するアシッド・ハウスから、サイマティクスやシャーマニズムの儀式の研究まで、ミルザは音、光、電流を媒体として一貫した探求を続けており、その姿勢は他のアーティストの協働するアプローチによってさらなる広がりを見せています。本展では、科学と神秘を織り込んだ探求のタペストリーを提示し、固有の周波数に振動する潜在的な力を浮かび上がらせていきます。
*1 サイマティクス(英: cymatics)
音や物体の固有振動を砂や水などが媒介して可視化すること。また、ハンス・ジェニー(1904-1972年)が考案した、その現象の研究を指す。人智学を支持したジェニーの影響もあり、音響セラピーにも応用され、体内組織に特定の周波数を共鳴させ、心身の治癒力を活性化させる研究が1940年代より行われた。
*2 クラドニプレート
多くは正方形または円形の水平な金属板が、中央に一点の支柱で土台に固定された装置。砂をばら撒いた金属板に特定の周波数を与えると、平面の強く振動する部分から砂が弾かれ、振動の節となって振動しない部分に集積し、対称的なパターンを形成する。ドイツ人物理学者エルンスト・クラドニ(1756-1827年)の名にちなみ、クラドニ図形と呼ばれる。
*3 オリビア・アレヴァロ
アマゾンに暮らす先住民「シピボ=コニボ」の族長で、ペルー最初の女性シャーマンの一人。医療にたずさわる家系に生まれ、伝統療法を継承する偉大なヒーラーとして知られた。2018年(アレヴァロ81歳)、カナダ人男性が自宅付近に侵入し、殺害された。
「Ceremonies and Rituals (祭典と儀式)」と題した本展では、ミルザを魅了する電流の効果をさらに掘り下げ、神秘的な体験と科学的な分析が交差する未知の領域に踏み入ります。神聖な幾何学や儀式の要素を取り入れ、宗教的セレモニーに用いられる音や、サイケデリック研究において神秘的な体験が神経学的プロセスとしてどのように解明されるのかという作家の関心を反映しています。
本展の中心となるのは、初公開となる2チャンネル映像のインスタレーション《Cymatic Ceremony》(2024年)です。映像がドラムセットのライブ演奏とシンクロするこの作品は、振動現象を研究する一分野であるサイマティクス*1に言及しています。映し出されるのは、森の中にいるアーティスト へルガ・ドロテア・ファノンであり、クラドニプレート*2の上に種を撒き、儀式めいた行為を続けています。111Hzを含む様々な周波数で共鳴する金属プレートは、歌い手(ジュリエット・フレイザー)の声に反応して複雑なパターンを見せます。固有の振動数と共鳴することで現れるこれらの模様は、サイマティックパターンと呼ばれ、雪の結晶や貝殻のような多くの自然形態に見出すことができます。本作では、スイスの医師であり人智学の提唱者でもあったハンス・ジェニーが研究したこれらの形態を参照しつつ、神秘的な「Om(オーム)」の周波数を111Hzと仮定しています。
展覧会では、ミルザの近作シリーズ 《Ogdoad Interstellar Magnet (Solar Cell Circuit Compositions)》もあわせて展示されます。8つ光線を放つ太陽に着想を得ており、タルテシア文明に起源をもつこのシンボルは、今日、アラブ世界で「ルブ・アル・ヒズブ」として知られています。八芒星の中心には、銅のコイルに包まれた隕石が置かれ磁場を形成しています。
本シリーズにおいてミルザは、パキスタン出身の画家ブリシュナ・アミン・カーンの細密画を縁取るように、複雑な回路を配してソーラー電池を並べ、LEDライトを発光させています。西洋の古典絵画やカトリックの図像では、後光や烽火のように光り輝くオーラは、崇高さや神性を象徴するものとされています。「一方、このシリーズに登場する人物は、異教の信徒であったり、土着のヒーラー、オリビア・アレヴァロ*3のようなサイケデリアの象徴です。「三点の作品はそれぞれ、《Cymatic Ceremony》の映像に直接関連するシーンを描いており、ギャラリースペースに注ぎ込む陽光と相互作用しながら、発光するソーラー電池の回路が、シャーマニズム儀式における自然と意識の変容段階を探求しています。」 (作家談)
「Ceremonies and Rituals」は、本ギャラリーでの10年ぶり2度目の個展であり、ミルザの最新作を公開する貴重な機会となります。社会政治的な背景に言及するアシッド・ハウスから、サイマティクスやシャーマニズムの儀式の研究まで、ミルザは音、光、電流を媒体として一貫した探求を続けており、その姿勢は他のアーティストの協働するアプローチによってさらなる広がりを見せています。本展では、科学と神秘を織り込んだ探求のタペストリーを提示し、固有の周波数に振動する潜在的な力を浮かび上がらせていきます。
*1 サイマティクス(英: cymatics)
音や物体の固有振動を砂や水などが媒介して可視化すること。また、ハンス・ジェニー(1904-1972年)が考案した、その現象の研究を指す。人智学を支持したジェニーの影響もあり、音響セラピーにも応用され、体内組織に特定の周波数を共鳴させ、心身の治癒力を活性化させる研究が1940年代より行われた。
*2 クラドニプレート
多くは正方形または円形の水平な金属板が、中央に一点の支柱で土台に固定された装置。砂をばら撒いた金属板に特定の周波数を与えると、平面の強く振動する部分から砂が弾かれ、振動の節となって振動しない部分に集積し、対称的なパターンを形成する。ドイツ人物理学者エルンスト・クラドニ(1756-1827年)の名にちなみ、クラドニ図形と呼ばれる。
*3 オリビア・アレヴァロ
アマゾンに暮らす先住民「シピボ=コニボ」の族長で、ペルー最初の女性シャーマンの一人。医療にたずさわる家系に生まれ、伝統療法を継承する偉大なヒーラーとして知られた。2018年(アレヴァロ81歳)、カナダ人男性が自宅付近に侵入し、殺害された。
作家・出演者 | ハルーン・ミルザ |
会場 | SCAI THE BATHHOUSE (スカイザバスハウス) |
住所 | 110-0001 東京都台東区谷中6-1-23 柏湯跡 |
アクセス | 日暮里駅(JR山手線, 常磐線, 京浜東北線, 京成本線)南口 徒歩11分 根津駅(東京メトロ千代田線)1番口 徒歩11分 |
会期 | 2024/08/27(火) - 10/12(土) |
時間 | 12:00-18:00 |
休み | 日曜日、月曜日 |
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