梅津庸一企画による版画のグループ展「エキシビション メーカー ブースターパック『宿命の版画入門』」を開催します。この展示では、「梅津庸一|エキシビションメーカー」の参加作家たち(プラス2名)が制作してきた、あるいは初挑戦することになる「版画作品」を展示します。見る側にとってはもちろん、作り手たちにとっても新しい視点をもたらす「版画入門」となるでしょう。
*展示作品は全て購入可能です。
なぜ、版画入門なのか
「マジック:ザ・ギャザリング」や「遊戯王OCGデュエルモンスターズ」といった巷を賑わせているトレーディングカードゲームにはブースターパックと呼ばれるゲームバランスを再編し得る追加要素が用意されている。自身のカードデッキを強化し、ゲームをより戦略的なものにする、あるいはたんにレアなカードをコレクションするなどその目的や用途は様々である。
本展はカードゲームにおけるブースターパックという販売形態から着想を得た展覧会である。ようするに、ワタリウム美術館で開催中の展覧会「梅津庸一|エキシビション メーカー」の拡張パック的な位置付けなのである。しかしながら、展覧会はカードゲームと違って容易に拡張したり改変することはできない。展覧会は得てして受動的なものであるし、観客の主体性に委ねられている。したがって、開催中の展覧会にもうひとつ展覧会を重ねたからといってそれが即座に効力を発揮するとは限らない。それでも本展を企画したのはオン・サンデーズの草野さんからの急な依頼を卒なくこなすためではない。「エキシビション メーカー」展には多くの版画作品が展示されているが、版画というメディア・技術についてもっと踏み込んで考えてみたいと思ったからだ。ひとえに版画といっても銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンといった区分を美術的な表現技法として着目するか、広義の意味での印刷産業の足跡として捉えるかでだいぶ違う意味を持つだろう。
僕は去年の3月から版画工房「カワラボ!」で集中的に版画をつくってきた。僕の作業していた部屋には梅沢和雄さん(梅沢和木の父)の卓越したメゾチントが原健さんのリトグラフの隣にかかっていた。和雄さんは過去に「プリントハウスOM」の刷り師として働いており「カワラボ!」の河原さん、平川さんの同僚でもあった。そんな偶然の「つながり」は「エキシビション メーカー」展のラインナップに色濃く反映され、あたかも最初からそれが必然であったかのように陳列されている。ところで「カワラボ!」では僕の他にサトエリさんも普段から制作しているのだが、本展では町田の版画工房「カワラボ!」全面協力のもと、あんどーさん、梅ラボさん、アラン君、佃弘樹さんが版画制作に初挑戦する予定だ。予定だ、とは言っても展覧会が始まるまであと2週間ほどしか猶予がない。つまり、今回も例に漏れず急ごしらえで組織される展覧会なのだ。しかし、ここは「無茶振り≒宿命」と読み替えて「版画入門」への契機としたい。いや、させてほしい。版画界ではなく、版画の海にダイブするのに参加作家の方々を道連れにするのは多少気が引けるが、きっと展覧会以後の活動にも何か良い影響をもたらすはずだ。
果たしてどんなデッキ(展覧会)が組めるだろうか。そして展示に訪れる観客のみなさんにも版画の特性(比較的手に入れやすい)を活かして自分だけのオリジナルデッキを組んでいただけたら幸いである。
梅津庸一
参加作家プロフィール
あんどー(安藤裕美)
安藤裕美は1994年東京都生まれ。美術の共同体パープルームの中心メンバーとして、神奈川県・相模原を拠点に活動。これまでパープルームが関わるグループ展や展覧会などに参加している。2020年1月に開催された個展「光のサイコロジー」ではアニメーション作品を発表。現在『美術手帖』にてマンガ作品「前衛の灯火」を連載中。
アラン(カード屋)
アランは1991年生まれのアーティスト、ゲーム・デザイナーでパープルームのメンバー。ボードゲームを制作しながら、ゲームをテーマにした美術作品を制作。これまでに「ゾンビマスター(2016)」、「communicatio – コムニカチオ(2017)」を発表。世界に再現性(ルール)が見出しにくくなったことが人々に停滞の感覚を生んでいると仮定し、ゲームを作ることを通して、この世界の法則を描くことを試みている。
梅ラボ(梅沢和木)
1985年生まれ。カオス*ラウンジのコアメンバーでもあり、インターネットおよびキャラクター表象を現代美術に持ち込んだ梅沢の仕事はゼロ年代からテン年代中頃までのアイコンだったと言っても過言ではない。ワタリウム美術館の展示では梅沢のもうひとつのルーツ(父・梅沢和雄の仕事)である日本の版画史の文脈を組み込んだ新作を発表。なお、今回の版画制作は作家自身にとって初めての試みとなる。
サトエリ(佐藤英里子)
1985年生まれ。版画とは思えないパステル画のような軽やかさ。ファッションと版画を学んだ佐藤の作品からはいわゆるフレーミングされた「版画」から逸脱しようという意志が感じられる。ワタリウム美術館での展示では布を支持体とした版画作品を発表。ウィリアム・モリスが提唱・実践した英国のアーツ・アンド・クラフツ運動のように、佐藤の版やパターンは「版画」という表現が日常の中に展開していく可能性を示唆している。
佃弘樹(予定)
1978年生まれ。グラフィック・デザイナーとしてクライアント・ワークを手がけたのち、ハイカルチャー、サブカルチャーの分け隔てなく作品のリソースにしたコラージュ、ペインティングなどの平面作品でアーティストとしてデビュー。テレビゲーム、小説、マンガ、SF的想像力に根ざした作品を手がけている。近年では空間を用いたインスタレーションへと作品の次元を拡張している。また、アンドレ・ブルトンの影響も受けており、シュルレアリスム的想像力をアップデートし続けているとも言えるかもしれない。
梅津庸一 (エキシビションメーカー)
1982年山形県生まれ。美術家・パープルーム主宰。主な個展に「未遂の花粉」(愛知県美術館、2017年)、「梅津庸一展|ポリネーター」(ワタリウム美術館、2021-22年)、「梅津庸一 クリスタルパレス」(国立国際美術館、2024年)など。主なグループ展に「恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画」(ワタリウム美術館、2017年)、ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ(国立西洋美術館、2024年)など。主な展覧会企画に「フル・フロンタル 裸のサーキュレイター」(三越コンテンポラリーギャラリー、2020年)など。作品集に『ラムからマトン』(アートダイバー、2015年)、『梅津庸一|ポリネーター』(美術出版社、2023年)。『美術手帖』 2020年12月号の特集「絵画の見かた」を監修。
*展示作品は全て購入可能です。
なぜ、版画入門なのか
「マジック:ザ・ギャザリング」や「遊戯王OCGデュエルモンスターズ」といった巷を賑わせているトレーディングカードゲームにはブースターパックと呼ばれるゲームバランスを再編し得る追加要素が用意されている。自身のカードデッキを強化し、ゲームをより戦略的なものにする、あるいはたんにレアなカードをコレクションするなどその目的や用途は様々である。
本展はカードゲームにおけるブースターパックという販売形態から着想を得た展覧会である。ようするに、ワタリウム美術館で開催中の展覧会「梅津庸一|エキシビション メーカー」の拡張パック的な位置付けなのである。しかしながら、展覧会はカードゲームと違って容易に拡張したり改変することはできない。展覧会は得てして受動的なものであるし、観客の主体性に委ねられている。したがって、開催中の展覧会にもうひとつ展覧会を重ねたからといってそれが即座に効力を発揮するとは限らない。それでも本展を企画したのはオン・サンデーズの草野さんからの急な依頼を卒なくこなすためではない。「エキシビション メーカー」展には多くの版画作品が展示されているが、版画というメディア・技術についてもっと踏み込んで考えてみたいと思ったからだ。ひとえに版画といっても銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンといった区分を美術的な表現技法として着目するか、広義の意味での印刷産業の足跡として捉えるかでだいぶ違う意味を持つだろう。
僕は去年の3月から版画工房「カワラボ!」で集中的に版画をつくってきた。僕の作業していた部屋には梅沢和雄さん(梅沢和木の父)の卓越したメゾチントが原健さんのリトグラフの隣にかかっていた。和雄さんは過去に「プリントハウスOM」の刷り師として働いており「カワラボ!」の河原さん、平川さんの同僚でもあった。そんな偶然の「つながり」は「エキシビション メーカー」展のラインナップに色濃く反映され、あたかも最初からそれが必然であったかのように陳列されている。ところで「カワラボ!」では僕の他にサトエリさんも普段から制作しているのだが、本展では町田の版画工房「カワラボ!」全面協力のもと、あんどーさん、梅ラボさん、アラン君、佃弘樹さんが版画制作に初挑戦する予定だ。予定だ、とは言っても展覧会が始まるまであと2週間ほどしか猶予がない。つまり、今回も例に漏れず急ごしらえで組織される展覧会なのだ。しかし、ここは「無茶振り≒宿命」と読み替えて「版画入門」への契機としたい。いや、させてほしい。版画界ではなく、版画の海にダイブするのに参加作家の方々を道連れにするのは多少気が引けるが、きっと展覧会以後の活動にも何か良い影響をもたらすはずだ。
果たしてどんなデッキ(展覧会)が組めるだろうか。そして展示に訪れる観客のみなさんにも版画の特性(比較的手に入れやすい)を活かして自分だけのオリジナルデッキを組んでいただけたら幸いである。
梅津庸一
参加作家プロフィール
あんどー(安藤裕美)
安藤裕美は1994年東京都生まれ。美術の共同体パープルームの中心メンバーとして、神奈川県・相模原を拠点に活動。これまでパープルームが関わるグループ展や展覧会などに参加している。2020年1月に開催された個展「光のサイコロジー」ではアニメーション作品を発表。現在『美術手帖』にてマンガ作品「前衛の灯火」を連載中。
アラン(カード屋)
アランは1991年生まれのアーティスト、ゲーム・デザイナーでパープルームのメンバー。ボードゲームを制作しながら、ゲームをテーマにした美術作品を制作。これまでに「ゾンビマスター(2016)」、「communicatio – コムニカチオ(2017)」を発表。世界に再現性(ルール)が見出しにくくなったことが人々に停滞の感覚を生んでいると仮定し、ゲームを作ることを通して、この世界の法則を描くことを試みている。
梅ラボ(梅沢和木)
1985年生まれ。カオス*ラウンジのコアメンバーでもあり、インターネットおよびキャラクター表象を現代美術に持ち込んだ梅沢の仕事はゼロ年代からテン年代中頃までのアイコンだったと言っても過言ではない。ワタリウム美術館の展示では梅沢のもうひとつのルーツ(父・梅沢和雄の仕事)である日本の版画史の文脈を組み込んだ新作を発表。なお、今回の版画制作は作家自身にとって初めての試みとなる。
サトエリ(佐藤英里子)
1985年生まれ。版画とは思えないパステル画のような軽やかさ。ファッションと版画を学んだ佐藤の作品からはいわゆるフレーミングされた「版画」から逸脱しようという意志が感じられる。ワタリウム美術館での展示では布を支持体とした版画作品を発表。ウィリアム・モリスが提唱・実践した英国のアーツ・アンド・クラフツ運動のように、佐藤の版やパターンは「版画」という表現が日常の中に展開していく可能性を示唆している。
佃弘樹(予定)
1978年生まれ。グラフィック・デザイナーとしてクライアント・ワークを手がけたのち、ハイカルチャー、サブカルチャーの分け隔てなく作品のリソースにしたコラージュ、ペインティングなどの平面作品でアーティストとしてデビュー。テレビゲーム、小説、マンガ、SF的想像力に根ざした作品を手がけている。近年では空間を用いたインスタレーションへと作品の次元を拡張している。また、アンドレ・ブルトンの影響も受けており、シュルレアリスム的想像力をアップデートし続けているとも言えるかもしれない。
梅津庸一 (エキシビションメーカー)
1982年山形県生まれ。美術家・パープルーム主宰。主な個展に「未遂の花粉」(愛知県美術館、2017年)、「梅津庸一展|ポリネーター」(ワタリウム美術館、2021-22年)、「梅津庸一 クリスタルパレス」(国立国際美術館、2024年)など。主なグループ展に「恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画」(ワタリウム美術館、2017年)、ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ(国立西洋美術館、2024年)など。主な展覧会企画に「フル・フロンタル 裸のサーキュレイター」(三越コンテンポラリーギャラリー、2020年)など。作品集に『ラムからマトン』(アートダイバー、2015年)、『梅津庸一|ポリネーター』(美術出版社、2023年)。『美術手帖』 2020年12月号の特集「絵画の見かた」を監修。
作家・出演者 | あんどー(安藤裕美), 梅津庸一(エキシビションメーカー), 梅ラボ(梅沢和木), サトエリ(佐藤英里子), アラン(カード屋), 佃弘樹(予定) |
会場 | オン・サンデーズ&ライトシード・ギャラリー (on Sundays & LightSeed Gallery) |
住所 | 150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6 ワタリウム美術館 B1F |
アクセス | 外苑前駅(東京メトロ銀座線)3出口 徒歩7分 表参道駅(東京メトロ銀座線, 半蔵門線, 千代田線)A2出口 徒歩9分 明治神宮前〈原宿〉駅(東京メトロ副都心線, 千代田線)5出口 徒歩13分 原宿駅(JR山手線)竹下口 徒歩14分 青山一丁目駅(東京メトロ銀座線, 半蔵門線, 都営大江戸線)1出口 徒歩15分 千駄ヶ谷駅(JR中央線) 徒歩17分 |
会期 | 2024/07/23(火) - 08/07(水) |
時間 | 11:00-20:00 |
休み | 無休 |
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