Token Art Centerでは、5月11日よりトモトシ個展「ハングリーマンション」を開催いたします。
トモトシは、国立大学法人豊橋技術科学大学建設工学課程を卒業したのち、10年間都市計画に携った経験から、「建築や都市の完璧なデザインはありえない」という考えに辿り着き、現在は都市の不完全性に着目した作品を映像、写真、インスタレーション、パフォーマンスとして発表しています。
この都市計画からアートへ転向した経歴は、作品内容だけでなくその手法にも大きく影響を与えているように思われます。大胆に社会に切り込み都市の見え方をドラスティックに変えるような作品は、ある意味で都市再開発のような目に見える効果をもたらすかもしれませんが、トモトシ作品はその逆の方向性、つまり、気付かれないように、成りすまし、忍ばせるような手法でアクションを仕掛け、人々の潜在的な意識に作用させようとすることが特徴といえるでしょう。
例えば、《逆パノプティコン》2016 という作品。都市の公園は、所有者による管理が隅々まで行き届いていて、植物は適切に剪定され、ごみはほとんど落ちていない。トモトシはそんな公園において、最初に誰も気づかない小さな植物を植えて、それを日に日に少しずつ大きな植物に植え替えていきました。途中、トモトシの植えた植物に公園の管理委託業者らしき人が水を撒いていたり、遊んでいた子供が触れている様子が映っていて、あたかも最初からそこに植えられていたかのように公園利用者は振る舞っている(その変化に気づいていて受け入れていた人もいたかもしれない)。しかし同時に植えられていなければ振る舞いは別のものになっていたのかもしれません。都市空間での人々の振る舞いやルールなどは、管理者によって設計される段階からすでに想定されていて、それに抗うことは一見難しいように思います。しかし、このようなトモトシが実践する小さなアクションによっても、それらは容易に変化させることができるのかもしれません。秩序が張り巡らされた都市と個人の意識の中に、実は自由が潜在しているのでしょう。
今回の個展「ハングリーマンション」は、フードデリバリーサービスと白旗、大きく分けて二つのモチーフを扱った作品で構成されます。メインとなる作品は、トモトシが日銭を稼ぐために行なっているUber Eatsなどのフードデリバリーサービスから着想されています。トモトシは、普段交わることのない、自身を含む低所得者層(配達する側)と高所得者層(注文する側)が、出会ってはすぐに離れる交点が配達によって発生することに興味を抱きました。都心での注文者の多くは高級マンション居住者であり、配達する際に通過するそのマンションエントランスは生活感を極力排し、豪華な設えとなっています。この公共空間と私的空間の境界であり、トモトシとの大きなギャップの象徴としてある高級マンションエントランスでのポートレート写真を用いたインスタレーションが1階展示室では展示されます。トモトシは、配達を繰り返していると、情緒的なやりとりが少ないフードデリバリーにおける注文者は、人間ではなくあたかもマンションであって、それらに飲み込まれていくような感覚になってくるといいます。食欲、金銭欲、名誉欲、さまざまな欲望が渦めく都市において、大きな資本に個人が飲み込まれてしまうのか、あるいはどのように抗うことができるのでしょうか。なお、会期中トモトシは会場に注文を待つ配達員として常駐し、注文のタイミングが合えばトモトシと共に配達へと同行することができます。そして、2階展示室においては、トモトシが継続して制作している白旗をモチーフとしたさまざまな映像を新旧を交えた5作品で構成されます。新しい戦前と言われ、国旗あるいは国家の意味が大きく変わりつつある現代において、コロナ禍から現在までに制作されたトモトシの白旗をモチーフとした作品はどのように映るでしょうか。
ところで、フードデリバリーサービスと白旗、一見全く異なる作品に思えます。しかし前述の通りトモトシの作品においては、表面的になりすますこと、あるいは擬態することが重要な要素としてあり、今回は配達員という表面的な記号によって個人が判断され私的な空間への侵入できる状況と、現代において国旗という表面的な記号で重要な判断がなされている状況が緩やかに接続されていきます。また、本展はトモトシが会場に待機し、来場者と共に街へ繰り出すこともできるため、展覧会であると同時に、トモトシが主宰するトモ都市美術館で実践されているコミュニケーションをベースとした体験の共有や集団的なアクションの実践といった性格も含んでいます。ぜひ展覧会を見ながら作家と話をしにいらしてはいかがでしょうか。
作家紹介
トモトシ tomotosi
1983年山口県出身。国立大学法人豊橋技術科学大学建設工学課程を卒業後10年にわたって建築設計・都市計画に携わる。2014年より展覧会での発表を開始。「人の動きを変容させるアクション」をテーマに主に映像作品を制作している。
2006年 国立大学法人豊橋技術科学大学卒(建築意匠)
2016年 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校修了
2019年 イメージフォーラム映像研究所修了
2019年 RAM Association: Research for Arts and Media-project
近年の個展
2023年「絶望的遅延計画」TAV GALLERY(東京)
2022年「Romantic Bomb」TAV GALLERY(東京)
2021年「ミッシング・サン(芸術競技2021)」TOH(東京)
2020年「ヘルニア都市」トモ都市美術館(東京)
2019年「有酸素ナンパ」埼玉県立近代美術館アーティスト・プロジェクト#2.04(埼玉)
2018年「tttv」中央本線画廊(東京)
近年のグループ展
2023年「ATAMI ART GRANT 2023」(静岡)
2022年 パフォーマンスクルージング「螺旋の川」(東京)
2022年「六甲ミーツ・アート2022」(兵庫)
2021年「水の波紋展2021」ワタリウム美術館 オン・サンデーズ他(東京)
2021年「4面鏡 / Quad Mirror」PARCEL(東京)
2020年「カモフラージュゼロ」関内文庫(神奈川)
2019年「あいちトリエンナーレ2019」(愛知)
トモトシは、国立大学法人豊橋技術科学大学建設工学課程を卒業したのち、10年間都市計画に携った経験から、「建築や都市の完璧なデザインはありえない」という考えに辿り着き、現在は都市の不完全性に着目した作品を映像、写真、インスタレーション、パフォーマンスとして発表しています。
この都市計画からアートへ転向した経歴は、作品内容だけでなくその手法にも大きく影響を与えているように思われます。大胆に社会に切り込み都市の見え方をドラスティックに変えるような作品は、ある意味で都市再開発のような目に見える効果をもたらすかもしれませんが、トモトシ作品はその逆の方向性、つまり、気付かれないように、成りすまし、忍ばせるような手法でアクションを仕掛け、人々の潜在的な意識に作用させようとすることが特徴といえるでしょう。
例えば、《逆パノプティコン》2016 という作品。都市の公園は、所有者による管理が隅々まで行き届いていて、植物は適切に剪定され、ごみはほとんど落ちていない。トモトシはそんな公園において、最初に誰も気づかない小さな植物を植えて、それを日に日に少しずつ大きな植物に植え替えていきました。途中、トモトシの植えた植物に公園の管理委託業者らしき人が水を撒いていたり、遊んでいた子供が触れている様子が映っていて、あたかも最初からそこに植えられていたかのように公園利用者は振る舞っている(その変化に気づいていて受け入れていた人もいたかもしれない)。しかし同時に植えられていなければ振る舞いは別のものになっていたのかもしれません。都市空間での人々の振る舞いやルールなどは、管理者によって設計される段階からすでに想定されていて、それに抗うことは一見難しいように思います。しかし、このようなトモトシが実践する小さなアクションによっても、それらは容易に変化させることができるのかもしれません。秩序が張り巡らされた都市と個人の意識の中に、実は自由が潜在しているのでしょう。
今回の個展「ハングリーマンション」は、フードデリバリーサービスと白旗、大きく分けて二つのモチーフを扱った作品で構成されます。メインとなる作品は、トモトシが日銭を稼ぐために行なっているUber Eatsなどのフードデリバリーサービスから着想されています。トモトシは、普段交わることのない、自身を含む低所得者層(配達する側)と高所得者層(注文する側)が、出会ってはすぐに離れる交点が配達によって発生することに興味を抱きました。都心での注文者の多くは高級マンション居住者であり、配達する際に通過するそのマンションエントランスは生活感を極力排し、豪華な設えとなっています。この公共空間と私的空間の境界であり、トモトシとの大きなギャップの象徴としてある高級マンションエントランスでのポートレート写真を用いたインスタレーションが1階展示室では展示されます。トモトシは、配達を繰り返していると、情緒的なやりとりが少ないフードデリバリーにおける注文者は、人間ではなくあたかもマンションであって、それらに飲み込まれていくような感覚になってくるといいます。食欲、金銭欲、名誉欲、さまざまな欲望が渦めく都市において、大きな資本に個人が飲み込まれてしまうのか、あるいはどのように抗うことができるのでしょうか。なお、会期中トモトシは会場に注文を待つ配達員として常駐し、注文のタイミングが合えばトモトシと共に配達へと同行することができます。そして、2階展示室においては、トモトシが継続して制作している白旗をモチーフとしたさまざまな映像を新旧を交えた5作品で構成されます。新しい戦前と言われ、国旗あるいは国家の意味が大きく変わりつつある現代において、コロナ禍から現在までに制作されたトモトシの白旗をモチーフとした作品はどのように映るでしょうか。
ところで、フードデリバリーサービスと白旗、一見全く異なる作品に思えます。しかし前述の通りトモトシの作品においては、表面的になりすますこと、あるいは擬態することが重要な要素としてあり、今回は配達員という表面的な記号によって個人が判断され私的な空間への侵入できる状況と、現代において国旗という表面的な記号で重要な判断がなされている状況が緩やかに接続されていきます。また、本展はトモトシが会場に待機し、来場者と共に街へ繰り出すこともできるため、展覧会であると同時に、トモトシが主宰するトモ都市美術館で実践されているコミュニケーションをベースとした体験の共有や集団的なアクションの実践といった性格も含んでいます。ぜひ展覧会を見ながら作家と話をしにいらしてはいかがでしょうか。
作家紹介
トモトシ tomotosi
1983年山口県出身。国立大学法人豊橋技術科学大学建設工学課程を卒業後10年にわたって建築設計・都市計画に携わる。2014年より展覧会での発表を開始。「人の動きを変容させるアクション」をテーマに主に映像作品を制作している。
2006年 国立大学法人豊橋技術科学大学卒(建築意匠)
2016年 ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校修了
2019年 イメージフォーラム映像研究所修了
2019年 RAM Association: Research for Arts and Media-project
近年の個展
2023年「絶望的遅延計画」TAV GALLERY(東京)
2022年「Romantic Bomb」TAV GALLERY(東京)
2021年「ミッシング・サン(芸術競技2021)」TOH(東京)
2020年「ヘルニア都市」トモ都市美術館(東京)
2019年「有酸素ナンパ」埼玉県立近代美術館アーティスト・プロジェクト#2.04(埼玉)
2018年「tttv」中央本線画廊(東京)
近年のグループ展
2023年「ATAMI ART GRANT 2023」(静岡)
2022年 パフォーマンスクルージング「螺旋の川」(東京)
2022年「六甲ミーツ・アート2022」(兵庫)
2021年「水の波紋展2021」ワタリウム美術館 オン・サンデーズ他(東京)
2021年「4面鏡 / Quad Mirror」PARCEL(東京)
2020年「カモフラージュゼロ」関内文庫(神奈川)
2019年「あいちトリエンナーレ2019」(愛知)
作家・出演者 | トモトシ |
会場 | Token Art Center (トークンアートセンター) |
住所 | 131-0032 東京都墨田区東向島3-31-14 |
アクセス | 曳舟駅(東武伊勢崎線〔スカイツリーライン〕, 亀戸線)西口 徒歩10分 東向島駅(東武伊勢崎線〔スカイツリーライン〕) 徒歩10分 京成曳舟駅(京成押上線)文化センター口 徒歩13分 |
会期 | 2024/05/11(土) - 06/09(日) |
時間 | 12:00-19:00 |
休み | 月曜日から金曜日 |
観覧料 | 500円(お茶付き) |
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